川で溺れかけた少年を救った話

ニートの日々
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雨の日

僕は正義の味方になりたかった。

きっかけは幼稚園の時だ。日曜日に放映されている戦隊ヒーローや仮面ライダーの影響を良く受けた。

戦隊の合体ロボットを必死に組み立てたり、ライダーのベルトを良く腰に回したものだ。

友達と遊ぶ時も常に僕は戦隊ヒーローの役をやって、友達に怪人役を押し付けたりした。

今考えればひどい話だ。でも僕は本気でヒーローにあこがれていた。

小学生になると、将来なりたい職業が「警察官」になっていった。

その為に空手を習って黒帯もとった。

空手には「組み手」や「型」などがあるのだが、実技を重んずる僕は「組み手」を良くやったりした。

突きをする時は脱力してからインパクトの瞬間に力を入れるなど、悪人を倒す為の準備をせっせとしていた。

中学生になると空手部に入った。

しかし、中学生になってくると現実が分かってくる。警察官の夢も意欲が低くなっていた。

それでも悪人を懲らしめる妄想は良くしていた。

授業中にテロリストが入ってきた時にどう対処するか良く妄想したもんだ。

まず、捕虜のふりをして標的に近づく。その後平手打ちをして平衡感覚を奪った後に、溝内を殴って無力化した後に武器を奪う。

こんな妄想を良くしていた。頭の中では警察から表彰している僕がいた。今考えるとアホみたいだ。

そして、高校生になる。

ここで僕の警察への夢が消える決定的な出来事が起こった。

「職務質問」だ。

開校記念日で高校が休みだった日である。

僕は自転車を漕いでいたのだが、忘れ物を思い出して家にUターンしたのだ。

この姿を警察官に発見されてしまった。警察の目にはこう映った。

「平日に遊んでいる学生がパトカーを見てUターンした」

すぐさまサイレンが鳴ってパトカーが僕を追いかけてきた。

僕は自分がその対象になっている事に気が付かないで、100メートル位自転車を漕ぎ続ける。

「そこの自転車を漕いでいる少年、止まりなさい」

そんな言葉が聞こえてきた。驚いた。まさか僕がサイレンの対象になっているとは・・・

「お勤めご苦労様です!」

僕は自転車を降りて、そう発言した。警察官になる夢は無くなっているとはいえ、警察に対する尊敬の念は持っていたからだ。

しかし、その発言も警察の癇に障ったのだろう。おちょくっているように聞こえたようだ。

「学校はどうしたの?なんでパトカー見て逃げたんだ。身体検査いい?自転車の照会もするよ」

マシンガンのように質問が飛んでくる。それは職務質問でなく、犯罪者に対する尋問に近かった。

僕は初めて警察の怖さを知った。

「特に異常はないね。まどろっこしい真似はしないように」

そんな注意をして警察は去っていった。

僕はショックだった。ショックだったのは警察の態度に対してではない。

正義の味方を目指していた筈の僕が、悪人側として見られている事がショックだったのだ。

こうして僕の警察になる事、さらには正義の味方に対する幻想も消えていった。

こうして大学生になった。

なんとなく法学部に入ったのだが、刑法にも民法にも憲法の学習にもあまり力が入らない。

気分転換に大学近くの川を良く歩くようになっていた。

川を歩いていると心が落ち着く。こんな感じでフラフラしていた。

雨の日もこのルーティンは変わらなかった。

そんな時だ。防犯ホイッスルを首にかけた小学生の子が歩いていた。

珍しい事じゃない。僕の大学の近くには小学校もあったので、良く子供も見かけたものだ。

しかし、僕の目にはその小学生は特別に映った。

何故ならその手には仮面ライダーの人形が握られていたからだ。ピンク色だったからエグゼイドだと考えられる。

雨が降っている中、その少年は人形を振り回しながら歩いていた。

川が勢いよく流れているのを見てテンションが上がっていたのだろう。

その勢いで手元に持っていた仮面ライダーの人形を投げてしまった。

人形は川の近くの土手に転がった。

少年はすぐさま川の近くに行った。

僕は思った、危ない。しかし、口には出ない。

いい年したお兄ちゃんが話しかけるのは、不審者じゃないかと葛藤した為だった。

少年は川に近づいて、無事に仮面ライダーの人形を捕まえた。

僕は安堵した。しかし、その瞬間少年は転んだ。

コンクリのブロックの窪みに足を滑らせてしまったのだ。

その瞬間僕の体はすぐさま動いた。

助けにいったら僕自身も巻き込まれるのではないか?引っ張るものを投げたらいいのじゃないか?

そんな考えは振り払って走った。

ヒーローに憧れた僕が動けない訳なかった。

それからどうなったと思う?

無事少年は助かった。幸いにも水に入ったのは足だけだった。

僕も助ける事に成功した。仮面ライダーを。

そうだ僕が憧れたのは仮面ライダーだ。ヒーローに憧れたのだ。

決して人を助ける事に憧れた訳ではないのだ。

僕は自力で立ち上がってくる少年に仮面ライダーを渡した。

「これで君のヒーローも安全だね!」

僕は少年を救った。だって少年が助けたかったのは仮面ライダーの人形だったからだ。

雨のせいか、仮面ライダーの瞳から涙が流れているように見えた気がした。

本日も雨の日で日曜日だ。あの日と変わらずニートは仮面ライダーを見ている・・・